クラシック散歩 Vo.1


「今宵、ヴェルディは泣いている」

世界3大劇場の一つ、イタリア・ミラノにあるスカラ座。外見は質素だが、場内は真紅のカーペットと瀟洒なシャンデリア。やはり、世界のスカラ座だ!
毎年12月8日はスカラ座の初日。スカラ座の初日は荒れる。観客の期待過多だが、必ずしも期待通りではないことが多々あること。また、その時の公演監督の好みで歌手たちが集められることがあるため、賛否両論が渦巻く場所となること必死だからだ。
20年前のミラノ・スカラ座での出来事。
その年はヴェルディ作曲「ドン・カルロ」での幕開けだった。念願の初日チケットをゲットして、友人と二人、ちょっぴりおめかしして出かけた。スカラ座近くにある老舗のバール(カフェ)でカンパリを1杯いただき、高揚した気分で劇場へ。
いざ、開幕。緊張と興奮の中、舞台は進行。そして終幕、ソプラノ歌手がアリアを歌い終わった直後に事件は起こった!私は3階席の3列目に座っていたが、その二列前の紳士が、静かに終わった演奏の音切れ直後に、低いバリトンの声で、あたかもシェイクスピア劇の俳優のように叫んだのだ。「ピアンジェ ヴェルディ、スタセーラ!」(今宵ヴェルディは泣いている!) 朗々としたその声が、会場全体に響き渡った。一瞬、場内はしんと静まりかえり、その後ブラーバ!とブーイングの渦となった。
私はその叫びを思い返しながら意味を考えた。つまり紳士は、そのソプラノ歌手の歌唱をこけおろしたのだ。私は怒号渦巻く中、呆然ア然、体が硬直…。やはり、スカラ座の初日はコワイ…。
同時に舞台に立っている女性歌手の身になってみた。スカラ座、そして世界の舞台に立つ歌手は、観客の全てを受け入れる、あるいは跳ね除ける覚悟やエネルギーを持ち合わせた人なのだ。
その強さと柔らかさを、体と心に取り入れていることが必要なのだと感じた。
終演後は、来場していた友人たちと合流し、その日の感想を語り合いながら、ミラノの冬の夜は更けていった。

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